top of page
頂上への沈降
硬い鉛のような
水際の気配
蒸した草むらから立ち上がる
生態の匂い
星の揺れに沿って
水面(みなも)が浮き沈みを重ねている
まるで此処が
この世の淵の行(ゆ)き溜(だ)まりで
あるかのように
静かにその間(ま)を
わたしでいる
道は蠕動(ぜんどう)する
飲み下したものを
巨大な腹の底に流し込む
あるいは
本能のままに往復する
運動を重ね
未分の状態へ還ろうとする
この原始の祈りに
膨大な空白は
一切の服従をはじめる
質量の存在が
重すぎず弱すぎず
引力による微弱なふるえを
抱き寄せている
人工灯の薄明かりが
淡い抵抗を続け
規則的な脈を打つ
列車の重みが
充満する底鳴りを
僅(わず)かに押し戻す
指先の皮膚の感覚は
にじんだ黒い温度のうえ
どこまでもなめらかに這い
舐めずり続ける
色彩は緩慢に
光は遠のく
手ざわりだけで座標を測るように
境界の無い
巨大な穴の呼吸は
孤独をゆっくりと押し潰す
まるで此処が
此方(こなた)と彼方(かなた)の逢瀬場で
あるかのように
静かにその間(ま)を
わたしている
2014/10/22
2015年個展「頂上への沈降」に寄せて
bottom of page